税務Q&A

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平成23年度改正のQ&A

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Q1 欠損金の概要と改正

A1

欠損金とは、「各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。」と規定されています(法法2十九)。すなわち、損金の額が益金の額を超える場合の超える部分の金額ですから、いわゆる「赤字」の部分を指します。
法人税法では、この欠損金の取扱いについて次の二つが規定されています(〔図1〕参照)。

〔図1〕欠損金の繰越しと繰戻し

〔図1〕欠損金の繰越しと繰戻し

① 繰越控除:欠損金を翌事業年度以後の各事業年度の所得と相殺する方法
② 繰戻還付:欠損金を前期以前の黒字と相殺し法人税の還付を受ける方法
 詳細は後述(②については次号)しますが、これらの規定にはそれぞれに制限が設けられており、無制限に繰越しあるいは繰戻しをすることができるわけではありません。
 そこで、最初に「所得」について確認しておきましょう。本来、法人税は、設立から解散までの法人所得全体について課税されるべきものです。また、その所得金額を計算するにあたり、欠損金は当然に益金から控除できるものであると考えられます。
 そこで、仮に設立から解散までを一事業年度と考えた場合、当該事業年度内の欠損金は、同期内の益金と当然に相殺されます。事業年度が2年であれば、1年目の益金と次の1年の欠損金は相殺されてしかるべきでしょう。
 しかし、現行の法人税法においては税収上、政策上等の理由から課税を解散まで待つことはできませんので、事業年度を人為的に1年以下に区切り、その事業年度単位で課税されています。すなわち実際には、1年以下という事業年度の中で益金と損金は相殺され、所得として計算されています。

Q2 欠損金の繰越控除

A1で説明された「欠損金の繰越控除」について詳しく教えてください。また、平成23年度改正における変更点がありましたら、併せて教えてください。

A2

1 繰越控除について
欠損金を翌事業年度以後に繰越して、翌事業年度以後の所得と相殺する繰越控除には次の①~④があります。ここでは、①と②について、平成23年度改正を含めてご説明します。

 なお、適格合併等をした場合に被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継ぐ規定もありますが、ここでは紙幅の都合上、説明を省略します。

① 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し(法法57)
② 青色申告書を提出しなかつた事業年度の災害による損失金の繰越し(法法58)
③ 会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入(法法59①②)
④ 解散した場合の期限切れ欠損金の損金算入(法法59③)

(1)青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し

① 概要

「欠損金の繰越し」とは、内国法人が青色申告書を提出する事業年度に生じた欠損金(青色欠損金)がある場合に、その欠損金を翌事業年度以後に繰越し、翌事業年度以後の所得の金額の計算上損金の額に算入する規定です(法法57)。つまり、前事業年度以前の赤字と赤字の生じた事業年度の翌事業年度以後の黒字を相殺する規定です。この規定は「算入する」規定であり「算入することができる」規定ではありませんので、繰越された欠損金がある場合には、強制的に損金の額に算入されます。
 法人税法22条では各事業年度の所得について、「当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする」としており、前事業年度以前から繰越された欠損金は損金の額に算入しないこととしており、このことを「事業年度独立の原則」といいます。
 しかし、繰越欠損金の損金算入を認めないこととすると、特定の事業年度の税負担が過重になることがあります。たとえば、X1期は欠損金1,000となり、X2期は所得が1,000となった場合に欠損金の控除が認められないとします。この2事業年度を通算すると所得は「0」となり、X2期に課税されると担税力がないにも関わらず納税しなければならなくなってしまい、企業における安定した資本の維持が難しくなります。
 繰越欠損金の規定は、「担税力がないところには課税しない」という原則を担保するための「事業年度独立の原則」の例外ということができます。


② 要件

この規定は、欠損金の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出しており、その後連続して確定申告書を提出している場合に適用されます。すなわち、欠損金の生じた事業年度の確定申告書を青色申告書で提出することが必要とされており、欠損金を損金の額に算入する事業年度については青色申告書の提出が求められているわけではありません。
 仮に、〔図2〕のように青色申告と白色申告がある場合に、白色申告である、平成25年3月期と平成26年3月期の欠損金は繰越すことができませんが、平成25年3月期と平成26年3月期において、平成24年3月期以前の繰越欠損金を控除することはできます。
 また、この規定の適用を受けるためには、欠損金の生じた事業年度の帳簿書類を適正に保存している必要があります。

 〔図2〕欠損金の繰越期間 3月決算法人の場合

〔図2〕欠損金の繰越期間 3月決算法人の場合

③ 繰越期間

担税力を考慮して設けられた規定であれば、期間制限なく全ての繰越欠損金が損金の額に算入されるべきであるという考え方もできます。しかし、現行の法人税法では期間の制限が設けられています。平成23年度改正では、その繰越すことができる期間が7年間から9年間に延長されました。それ以前の平成16年度の改正前は、繰越期間が5年間とされていました(〔図3〕参照)。

〔図3〕欠損金の繰越期間 3月決算法人の場合

〔図3〕欠損金の繰越期間 3月決算法人の場合

※ 平成23年度の改正により、平成20年4月1日以後に終了する事業年度から9年間繰り越すことになりました

上記のとおり平成23年度の改正により、欠損金は9年間繰越すことができるようになりました。しかし、9年間を経過した場合には期限切れとなるため、損金の額に算入することはできなくなり、通常の事業年度では損金の額に算入する機会を失うこととなります。この期限の切れた欠損金をいわゆる「期限切欠損金」といいます。
 ここでは詳細は省略しますが、この「期限切欠損金」は、法人が解散等をし、清算する際に、一定の要件を満たすことにより損金の額に算入することができます。


④ 損金算入限度額

また、平成23年度の改正により、損金の額に算入することができる欠損金額が、損金の額に算入する事業年度の所得の金額の100分の80に制限されることとなりました。つまり、改正の適用される平成24年4月1日以後開始事業年度においては、たとえ所得の金額よりも多くの繰越欠損金がある場合でも、繰越控除前の所得金額の20%相当額には法人税が課税されることになります。
 先ほどご説明した、繰越期間が7年間から9年間(注)に改正されたのは、この改正の影響によるものです。ただし、この改正が適用されるのは大法人に限られます。中小法人については100分の80の限度額は適用されません。しかし、中小法人については繰越期間の改正は適用されますので、単に期間が延長されたこととなります。
(注)7年÷80%=8.75年(1年未満切上) ∴9年


⑤ 中小法人の範囲

ⅰ 普通法人のうち、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの(注)又は資本若しくは出資を有しない法人
ⅱ 公益法人等又は協同組合等
ⅲ 人格のない社団等
(注)次に掲げる法人は除かれます。資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人、相互会社等との間に完全支配関係のある法人

⑥ 適用事業年度

平成23年度改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用され、平成20年4月1日以後に終了する事業年度に生じた欠損金について、9年間繰越すことができます。

⑦ 更正の請求

繰越欠損金の控除期間が9年間に延長されたことに伴い、欠損金額に係る更正の請求期間が9年間に延長されました。また、税務署長が行う欠損金額に係る更正の期間も9年間に延長されました(通法23①、70②)。これは、欠損金額に係る更正の請求期間のみが延長されたものであり、他の事由による更正の請求期間は延長されていません。税務署長が行う更正期間の延長も同様です。

(2)青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し

① 概要

青色申告書を提出していない事業年度において生じた欠損金額のうち、棚卸資産、固定資産又は一定の繰延資産について震災、風水害、火災その他の災害により生じた損失のうち一定のもの(以下「災害損失欠損金額」という。)は翌事業年度以後に繰り越して、翌事業年度以後の所得の金額の計算上、損金の額に算入します(法法58)。

② 災害損失欠損金額

青色申告書を提出した事業年度の欠損金は、益金の額を損金の額が超える場合の超える部分の金額を指しますが、「災害損失欠損金額」は欠損金額のうち、次に掲げる損失の額(保険金、損害賠償金等により補てんされるものを除く。)の合計額に達するまでの金額をいいます(法令116、〔図4〕参照)。
ⅰ 災害により資産が滅失した場合のその資産の帳簿価額、若しくは損壊したこと又は災害による価値の減少に伴い資産の帳簿価額を減額した場合のその減額した額(資産の取壊し又は除去の費用等を含む。)
ⅱ 災害により当該資産が損壊したこと等により、当該資産を事業の用に供することが困難となった場合において、その災害のやんだ日の翌日から1年を経過した日(大規模な災害の場合その他やむを得ない事情がある場合には、3年を経過した日)の前日までに支出する次に掲げる費用
 イ 災害により生じた土砂その他の障害物を除去するための費用
 ロ 当該資産の原状回復のための修繕費
 ハ 当該資産の損壊又はその価値の減少を防止するための費用
ⅲ 災害により当該資産につき現に被害が生じ、又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合において、当該資産に係る被害の拡大又は発生を防止するため緊急に必要な措置を講ずるための費用に係る損失の額

 〔図4〕青色欠損金と災害損失欠損金の繰越可能額

〔図4〕青色欠損金と災害損失欠損金の繰越可能額

繰越期間、損金算入限度額と適用事業年度については「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し」と同じですので上記をご参照ください。


③ 青色申告書を提出しなかった場合

災害損失欠損金額は、青色申告書を提出しない場合に適用がありますが、青色申告書を提出している場合には、もちろん益金の額を損金の額が超える部分について全額繰越しが可能です。

④ 災害等により青色申告書を期限内に提出できなかった場合

青色申告の取消しに該当する場合として「確定申告書をその提出期限までに提出しなかったこと」があります。災害等の場合に、確定申告期限までに申告書を提出できないことは十分考えられます。しかし、災害等の場合には申告期限の延長が認められますので、取消し事由に該当することはありません。
 また、提出期限までに提出できなかった場合の取扱いも、通達において「二期連続して期限内に提出しなかった場合に、二期目以後の青色申告を取り消す」としています(法人税個別通達109「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」)。つまり、災害等の場合であっても青色申告の承認を受けていれば「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し」の適用がありますので、「災害による損失金の繰越し」の適用がある場合は、最初から青色申告の承認を受けていない、または青色申告の取消しがあったような場合になると考えられます。

(3)青色欠損金と災害損失欠損金の適用順序


上述したように、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していれば、「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し」の適用があります。また、青色申告書を提出していない事業年度に災害損失欠損金が生じた場合には「青色申告書を提出しなかつた事業年度の災害による損失金の繰越し」の適用があります。どちらの欠損金が優先されるものではありませんので、生じた順が古い欠損金から控除することとなります。

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